前編:「価値の創造から再投資までの一連の流れがマーケティング」

前編:「価値の創造から再投資までの一連の流れがマーケティング」

企業のマーケティング活動を幅広く取材・発信する経済専門メディア「日経クロストレンド」。その編集長に2025年4月1日付で就任した中村勇介氏に、インタビューを実施した。前編では中村氏のキャリアや媒体の特徴、マーケティングをどう捉えているかといった考えを伺った。

日経クロストレンド 編集長 中村勇介氏

デジタルマーケティング一筋のキャリア

加藤:本日はよろしくお願いします。まずは経歴について教えていただけますか?

中村:私は最初、ウェブデザインをテーマにした雑誌の編集に関わっていました。ウェブ制作会社の子会社が紙媒体のメディアも出していて、編集長と私とデザイナーの3人体制という小さな編集部で活動していたんです。その媒体が休刊することになった時に、現在日経BPの常務執行役員 経営メディア担当を務める杉本(昭彦)さんから「日経ネットマーケティング(当時)で書ける記者を探している」という話をいただいて、そこから日経BPでのキャリアが始まりました。

日経ネットマーケティングは2011年3月に日経デジタルマーケティングにリニューアルし、2018年までずっとそこに所属していました。2018年4月に日経デジタルマーケティングが日経ビッグデータ、日経トレンディ、日経デザインと統合して、現在の日経クロストレンドが誕生します。実質的には一貫してデジタルマーケティング分野を担当してきています。

加藤:長くデジタルマーケティングの分野に携わってこられたんですね。現在は日経クロストレンドの編集長としてどのような役割を担っていらっしゃるのでしょうか?

中村:日経クロストレンドはプラットフォームと媒体という2つの側面を持っていて、私は編集長として、日経エンタテインメント!や日経トレンディ等、日経クロストレンドに収録される記事は全て目を通す立場になりました。日経クロストレンド以外の媒体にはそれぞれ編集長がいますので、コンテンツの責任はそれぞれの媒体の編集長が持つ形になりますが、日経クロストレンドというプラットフォームに載る以上は、私も全体を見る責任があります。

日経クロストレンドは、toBとtoCの両面をカバーするプラットフォームであり、媒体である

加藤:先ほど、日経クロストレンドはプラットフォームと媒体という2つの側面を持っているという話もありましたが、日経クロストレンドについて、どのようなメディアなのかもう少しご紹介いただけますか?

広報ナビ 編集長 加藤恭子

中村:日経クロストレンドはプラットフォームとして、日経トレンディや日経デザイン、日経エンタテインメント!、そして7月に創刊予定の日経Gamingなど、複数の媒体の記事を掲載しています。BtoCとBtoB両方の記事が読めるのが大きな特徴です。

一方、媒体としての日経クロストレンドは「マーケティングがわかる 消費が見える」をテーマに、マーケティングにまつわる情報を幅広く届ける媒体です。もともと日経デジタルマーケティングと日経ビッグデータが母体になっていることもあり、デジタル領域を中心に取材しながら、現在は営業領域まで取材範囲を広げています。

加藤:読者はどのような方々なのでしょうか?

中村:マーケティング業務に従事する方が中心で、大手企業所属の方が多いと思います。新規事業開発や経営企画を担当する方も読んでくださっています。一方、彼らに情報提供したり提案したりする立場の方々、たとえばコンサルタントや代理店の方々も常に新しい情報を求めていらっしゃるので、そういう方々にとっても役立つ内容になっていると思います。

加藤:編集方針も伺いたいです。

中村:媒体としての大テーマは「マーケティング」なのですが、この言葉は人によって捉え方が違ってきます。広告宣伝をマーケティングと考える人もいれば、売れる仕組み作りと捉える人もいますよね。

我々は「価値の創造から価値のデリバリー、そこで得た収益の再投資というサイクル全部がマーケティング」と位置づけています。価値の創造とは、顧客インサイトを見つけ出し、それを具体的にどう商品化するかという商品開発の段階です。デリバリーは商品を知ってもらうための広告宣伝や、店舗の棚づくりなど。この領域は営業と呼ばれることもありますが、広義のマーケティング活動です。そして収益が得られたら、それを新商品開発やリブランディングなどに再投資していく。

このような一連の流れをすべてマーケティングと捉えているので、日経クロストレンドはテーマが幅広く見えるかもしれません。マーケティングの組織作りや、ある企業がマーケターの専門職採用を始めたといった内容も記事になることがあります。

複数企業を横断的に捉える記事が人気

加藤:最近特に反響があった企画や記事はありますか?

中村:1つは「新指標『顧客幸福度』ランキング」という、ファンベースカンパニーと共同調査した特集です。一般的なブランド調査では資産価値や認知度でランキングを作ることが多いのですが、我々は「その企業・ブランドがあることで、どれだけ生活者が幸福を感じているのか」という視点で作りました。ランキングものは幅広く関心を集めやすいこともあり、良く読まれました。

また、3月末から4月にかけて組んだ「凄腕マーケター必須の『3種の神器』」という特集も人気でした。4月は異動や採用で新しくマーケティング業務に就く方も多いので、汎用的な記事を載せることで幅広い読者へのアピールを目指しています。

この特集では凄腕のマーケターの方々に「もし新人に戻れるなら何を学ぶか」を尋ね、共通するスキルは「顧客理解」「課題発見力(市場創造力)」「分析力(リサーチ力)」の3つであることを導き出しました。SNSやAIの登場でマーケティングに関わるスキルが増え続ける中、何から学べばいいのかを整理し、具体例やスキルの身に付け方も解説した特集だったのですが、これはものすごく反響がありました。

他には毎年12月に「未来の市場をつくる100社」という特集をしています。日経クロストレンドは大企業の事例を多く取り上げるイメージがありますが、この特集は将来的に新しい市場を生み出していく技術やサービスを提供しているスタートアップを紹介するもので、これも毎年好評です。

加藤:特定の企業の事例よりも、複数の企業を横断的に取り上げる記事の方が支持されるのでしょうか?

中村:一概には言えませんが、一社ものの記事は読み手の業種が絞られてしまう傾向があります。たとえば化粧品会社の記事だと化粧品会社にしか関係ない内容になってしまうこともあり、読者層が狭くなります。取り上げる一社がマーケティングで有名な企業であれば話は別ですが、テーマを設け、複数企業を取り上げる記事を掲載することの方が多いです。

プラットフォームをテーマに特集することもあります。最近では「LINEマーケ新潮流 顧客接点を大改革」という特集の中で、「売上伸ばす『LINEマーケ』最前線 ビームスはID連係で購入額1.5倍の成果」という記事を公開しました。プラットフォームの使い方をさまざまな企業の事例、さまざまな切り口で書いていき、同じプラットフォームを利用する読者が参考になる情報を得られるようにしています。

後編に続く

(聞き手:加藤恭子 執筆:村島夏美)

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