後編:「広報も売上への貢献を意識することが大切」日経クロストレンド 中村勇介 編集長 インタビュー

後編:「広報も売上への貢献を意識することが大切」日経クロストレンド 中村勇介 編集長 インタビュー

企業のマーケティング活動を幅広く取材・発信する経済専門メディア「日経クロストレンド」。その編集長を務める中村勇介氏にインタビューを実施した。後編では、メディアの立場から見た効果的なアプローチ方法や今注目しているテーマ、新人広報へのアドバイス等を伺った。(前編はこちら

日経クロストレンド 編集長 中村勇介氏

プレスリリースを出すことで、後から特集に入れて貰えることも

加藤:広報担当者とのやり取りで、こうしてもらえると助かるということや、逆に困ることがあれば教えていただけますか?

中村:困るのは、媒体を読んでいない提案です。どういう読者がいるかまではなかなか分からないと思いますが、記事を読んでいれば「こういう情報が欲しそうだ」ということが分かるはずです。とはいえ、そうした提案がどこかで関わってくる可能性もゼロではないため、完全にお断りすることはないのですが。

加藤:特集を企画する際には、どのようにして取材先を探すのでしょうか?

中村:特集が決まったら調べ始めるというパターンが多いです。たとえばLINEマーケティングの特集を行うことになったら、過去のプレスリリースなどを調べます。事業会社からのものでなくても、「支援した企業でこんな成果が出ました」といった事例があれば取材対象になることもあります。

その瞬間は記事にならなくても、後で特集を組む際に情報のプールがあった方が良いので、プレスリリースは随時出しておくことをお勧めします。何も出していなければ検索にも引っかからないので、見つけてもらえる可能性が低くなります。

また、紙のようにページ数が決まっているわけではないのもウェブメディアならでの特徴です。日経クロストレンドの特集では親ページができて、そこに各記事がずらっと並ぶのですが、自由に回数を増やせるんです。後から取材して「これはLINE特集に入れた方が良いな」となったら、追加できます。ただ「この特集に入れてください」と言われて入れられるかは別問題ですが。

他にも、特集に入らなくても「インサイド」というコーナーで一本の記事として載るパターンもあります。なので、日経クロストレンドでLINEの特集が終わったばかりのタイミングでも、LINEに関する情報についてプレスリリースを出しておくことに意義はあると思います。

加藤:特集で取り上げるとなった際、プレスリリースの新規性は気にならないでしょうか。

中村:鮮度が重要な情報と、腐らない情報があると思っています。たとえば、「凄腕マーケター必須の『3種の神器』」に掲載した情報は、昔の事例でも今も変わらず本質的な内容で、腐りません。一方、SNSの機能は、1年で変わることもあり、鮮度が重要です。腐らない情報であれば、過去のプレスリリースであっても取り上げる可能性もあります。

編集長として注目するテーマは、生成AIとプラットフォーマーの動向

加藤:編集長として今注目していることや、世の中で注目されはじめていると感じることがあれば教えてください。

広報ナビ 編集長 加藤恭子

中村:どのメディア関係者も同じことを言うかもしれませんが、やはり生成AIですね。マーケティング業界にも大きな影響を与えています。最近では生成AIがクリエイティブ広告を制作するようになってきていて「広告代理店はいらないのでは」という議論も起きています。

記事としては「広告代理店不要論争」といった強いタイトルをつけることもありますが、実際には不要というより、役割が変わってくるということでしょう。人がやるべきこと、AIがやるべきことがどんどんはっきりしてきています。

たとえば、昔は人間がExcelを見ながら広告運用していましたが、今は生成AIにクリエイティブを入れ込み、「一番成果が高いものだけ残して」といえば、自動的に運用してくれます。これはもう人間の仕事ではなくなりつつありますよね。

もう一つはプラットフォーマーの動向です。アメリカで訴訟が起きて事業の切り分けが必要になり、今まで寡占状態だった市場が大きく変わるかもしれません。TikTokがアメリカで禁止されるかもしれないという話もありますし、読者も知りたいことが多いのではないかと思い、注視しています。

加藤:まさに目が離せない状況で、日経クロストレンドを読んで最新動向を把握し続ける必要があるというわけですね。

中村:特にデジタルマーケティングの分野は変化が速いので、常にアンテナを張り続けることが大切です。

新人広報は、自社サービスの理解と媒体研究を徹底しよう

加藤:最後に、新人広報担当者へのアドバイスをいただけますか?

中村:一番重要なのは自社サービスについて詳しくなることです。自分たちの商品・サービスが誰にどういう価値を提供しているのか、どういう人がお客さまなのか、今後どういうお客さまに広げていきたいのかを徹底的に理解することが大切ですね。

それが分かれば、次は媒体研究です。自分たちが商品やサービスを届けたい相手が分かれば、その人にアプローチできるのはどの媒体かを調べていただきたいです。媒体としては、読者が欲しい情報を届けたいと考えています。その読者と、自社の商品やサービスの価値を届けられる相手が合致していれば、商品やサービスについての情報が読者の知りたい情報となりますから、Win-Winなのではないでしょうか。

加藤:おっしゃる通り、どこに載ったら良いかを考えることが重要だと思います。一方、広告換算という言葉もあり、広告の金額に直した上で、金額が高いことを成果だと捉えるケースも見られます。(参考記事「広報活動の「広告費換算」は危険 目的に応じた加点式で評価」

中村:広報のKPIは難しいと思います。広告換算値の他に掲載数や露出量などの指標もありますが、本来は売上への貢献度を測ることが理想です。たとえば記事が載った後に自社サイトへの指名検索がどれくらい増えたかといったことを考えるのが本筋ではないでしょうか。ウェブの記事だと影響を測るのは難しいかもしれませんが、気持ちとしては、そのくらいの意識で取り組むべきだと思います。

加藤:他にも、新しく広報になった方だと、メディアの名刺を集めることが大事だと考えている人も多くいらっしゃいます。活動の1つとしては大切ですが、自社のサービスのことを学ぶことと並行して行わないと、なかなか上手くいかないのではないかと思います。

中村:そうですね。名刺を集めること自体は悪いことではありませんが、集めた名刺の宛先全てに一律の情報を届けるのではなく、この媒体にはこういう切り口が良いかも、あの人はこうしたことを良く取材しているからこんなネタにしようと、相手に合わせるのが大切です。ひと言添えるだけでも変わると思います。

記者との関係構築は簡単ではありませんが、すぐに記事にならないからといって諦めるのではなく、送り続けることで、何か関連する特集があったときに真っ先にその人の姿が浮かぶといった関係性もできていくと思います。

加藤:貴重なお話をありがとうございました。

中村:こちらこそありがとうございました。

聞き手:加藤恭子(広報ナビ 編集長) 執筆・構成:村島夏美(primeNumber)

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