後編:PR界隈は3年周期で人が入れ替わる?ZDNET Japan編集長が語る広報担当者への本音

後編:PR界隈は3年周期で人が入れ替わる?ZDNET Japan編集長が語る広報担当者への本音

企業向けIT情報を発信するメディア「ZDNET Japan」。その編集長に2025年4月1日付で就任した藤本和彦氏に、インタビューを実施した。前編では藤本氏のキャリアや媒体の特徴、編集方針、後編では、広報担当者とのやり取りで感じることや新人広報へのアドバイス、業界の変化について伺った。

ZDNET Japan 編集長 藤本和彦氏

取材後のフォローアップをしてもらえると嬉しい

加藤:広報担当者との初めてのやり取りで、こうしてもらえると助かることや、逆に困ることがあれば教えてください。

藤本:一番基本的なところでは、ちゃんと媒体を読んでから連絡をして欲しい、ということですね。

我々の媒体を知らずに連絡をされると、我々のターゲットが何か、どういうコンテンツを提供しているかを改めて説明しなければならず、時間を取られてしまいます。できれば事前に我々の媒体の方向性を掴んでいただいた上でご提案いただけると、話もスムーズですし、記事になる確率も高くなるのではないかと思います。

加藤:広報からコンタクトをする際には、記者の担当テーマなども気にした方が良いでしょうか?

藤本:担当領域を一応分けてはいますが、3人体制なのでお互いカバーし合うような形です。なので、テーマにこだわりすぎず、知り合いの記者や編集者に声をかけてもらえればと思っています。

加藤:コロナ禍を経て、広報からのコンタクト方法に変化はありましたか?

藤本:突然オフィスに来ることはほぼなくなりました。電話も、外部の代行サービスを使うようにしているので、私たちに直接つながることは基本ありません。携帯電話の番号を知っている方であれば直接話ができますが、ファーストコンタクトとしては直接つながる手段がないのが現状です。

加藤:今まで接点のなかった新しい広報担当者は、コンタクトが難しくなっているということでしょうか?

藤本:実際そうだと思います。SNSでアカウントを見つけてコンタクトするという方法もありますが、最近ではセキュリティ的に不安な面があります。知らない人から急にコンタクトが入ってくると、これは本人なんだろうかと思うところもあって、なかなか躊躇してしまうんですよ。

加藤:メールでのアプローチについてはいかがでしょう?

藤本:同報メールが多いのが現状ですね。いただけるだけありがたいのですが、やはり同報メールだと他に紛れてしまう場合が多くて。できれば個別にメールをいただける方が、より目に留まります。メルマガのような形で来てしまうと、そのままどこかのフォルダに振り分けられてしまうんです。

加藤:取材時の対応で気をつけてほしいことはありますか?

広報ナビ 編集長 加藤恭子

藤本:事前に質問項目をくださいと言われることが多いんですが、どうしても時間が足りない時もあって、そういう時は困ってしまう時があります。時間がある時であればしっかり考えてお送りできるのですが、後回しになりがちで、お送りするのが直前になってしまい申し訳ないと思うことも正直多いです。

逆に、取材の後にフォローアップしていただけると、すごくありがたいですね。インタビュー中に市場データの話とか過去のリリースとか、いろんな話題が出るんですけども、改めて自分で調べて探すよりは、後で「取材中に言及されていたのはこのブログ、この調査結果です」といったフォローアップをいただけると非常に助かります。

加藤:原稿を事前に見せてほしいという要望もありますか?

藤本:結構ありますね。一部のPR会社さんは、それが当たり前のような感じになっていたりしますが、事前にお見せするのはお断りするパターンが多いんです。

情報の中立性という部分もありますし、誤字脱字や数字が間違っているといった事実誤認があれば直していただくのはむしろありがたいんですが、ニュアンスの問題や言い方といった部分については修正をお受けすることが難しいんです。基本的に、取材の場でお話をされたことは、公にできる部分として捉えていますから。

PR界隈は3年周期で人が入れ替わる?

加藤:最近のPR会社や広報担当者の傾向について、変化を感じることはありますか?

藤本:人の出入りが多いですね。お付き合いのあった方も、数年で転職したり部署が変わったり退職したりということが多くて。せっかく関係も構築できて、我々の媒体も理解していただいたところで、また新しい担当者さんになってしまうので、もったいないなと感じています。

加藤:なぜそのような状況になっているのでしょうか?

藤本:キャリアとして3年がひとつの周期になっているのかもしれません。たとえばPR代理店でひと通り業務を経験した後に、事業会社の広報やマーケティングになるといった話はよく聞きます。PRエージェンシーや代理店でのキャリアがうまく作れない状況にあるのかもしれません。人材が流出してしまっているという感じがします。

記事を見比べて各媒体の特徴を掴もう

加藤:新人の広報担当者に向けてアドバイスをいただけますか?

藤本:まずは「ぜひZDNET Japanの会員登録をして、毎日メルマガを取って記事を読んでください」ということですね(笑)。

真面目な話をすると、私が新人だった頃は、IT系のウェブメディアを毎日巡回して読んでいました。どういう話が世の中に出回っているか、どういう記事がどういうふうに書かれているのかを見たり、自分が出席して記事にした会見が、他の同業他社の編集者にはどういうふうに書かれているのかを見比べたりしていました。

業界を知るためには、その業界の記事を腐るほど見るというのが近道なんじゃないでしょうか。

加藤:記事を見比べることで何がわかるのでしょうか?

藤本:各媒体の特徴が浮き彫りになってくると思います。ある発表会について複数の媒体で記事が掲載されると思うのですが、その時にどういうふうに書き分けられているか、どこに焦点を各社が当てているかを見比べてみると参考になるはずです。

会見が終わって次の日に「A社、B社、C社で記事になりました」と報告して終わりとするのではなく、その中身がどういう形になっているのか、どの記者がどう書いているのかといった特徴を捉えられれば、次回その記者に連絡する方法や、提供する情報が変わってくると思うんです。

加藤:機械的に数をこなす時代ではないということですね。

藤本:そうですね。パーソナライズした情報を提供できる方が、圧倒的に反応が良くなると思います。これからの時代は特にそうなるのかもしれません。AIのような自動化ツールもどんどん入ってくるでしょうが、大量にメールをばらまくだけでは、本当に欲しい人に情報を届けられないのではと思っています。

10年後に、次のGoogleやMicrosoftになるような会社を見つけたい

加藤:新人広報が記者と知り合う機会についてはいかがでしょうか?

藤本:コロナ禍後は業界での交流イベントもあまり開催されていないですし、たまにそういう交流会にお誘いいただいても、毎回参加するというのは難しいところがあります。

ただ、新しい企業には興味があります。やっぱり、10年後、20年後に次のGoogleになる会社とか、次のMicrosoftになるような会社を見つけたいじゃないですか。

業界を盛り上げていかなければいけないので、そういう窓口は本当は我々も常に開いておかなきゃいけないんですけど、いろいろ難しい中で課題になっています。

加藤:貴重なお話をありがとうございました。

藤本: こちらこそありがとうございました。引き続きよろしくお願いいたします。

聞き手:加藤恭子(広報ナビ 編集長) 執筆・構成:村島夏美(primeNumber)

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