前編:Web担当者Forumの四谷編集長が語る、広報とメディアとの関係構築術

前編:Web担当者Forumの四谷編集長が語る、広報とメディアとの関係構築術

ウェブサイト担当者のための情報サイト「Web担当者Forum(通称Web担)」。その編集長を務める四谷志穂氏に、広報担当者とメディアの関係性について話を伺いました。メディアの立場から見た効果的なアプローチ方法や、陥りがちな失敗例、最近の傾向など、貴重な洞察を語っていただきました。今回は前編です。

Web担当者Forum 編集長 四谷志穂 氏

Web担とは:読者主役のサポーターメディア

加藤: 今日はありがとうございます。まず、Web担当者Forum(以下、Web担)はご存じの方が大半だと思いますが、念の為どういうメディアなのか、簡単にご紹介いただけますか?

四谷: はい。私たちの媒体は、読者が主役で、我々はそういう人たちのサポートをするメディアだと考えています。読者の皆さんが困っていたら読める記事や、疲れている時に共感してもらえたり、新たな視点をもらえたりするような、そんなことを目標に運営しています。時にはちょっとくすっと笑えるようなものも提供しています。

具体的には、ウェブサイトの運営やデジタルマーケティングに関する最新のトレンド、実践的なノウハウ、成功事例などを幅広く取り上げています。また、読者同士が情報交換できるフォーラム機能も提供しており、業界の専門家や実務者が直接コミュニケーションを取れる場として機能しています。

加藤: それは創刊時からの思いと繋がっているんですか?

四谷: そうですね。創刊は2006年、今から18年前です。当時はまだスマートフォンも登場していない時代で、「企業のウェブサイトをどうやって作るの?」といった段階でした。そういう人たちが集まって交流でき、安心して安全に集まれる場所を提供しようということで、「フォーラム」という名前がついています。

その趣旨は変わらず、ウェブサイトだけでなく、今ではSNSやアプリなど、マーケティングのタッチポイントが増えていますが、それらも網羅しつつ、そういった分野に携わる人たちが安全に集まって交流できる場所を提供するというのは現在でも変わっていません。

特に最近では、AIやデータ分析、ユーザー体験(UX)デザインなど、Web担当者に求められるスキルや知識が急速に変化・拡大しています。そういった新しい分野についても、できるだけわかりやすく、実践的な情報を提供することを心がけています。

加藤: なるほど。情報提供だけでなく、共感や安心感を提供する場という位置づけなんですね。

四谷: はい。私が編集長になってから、メンバーとともに半年かけて週1回、30分から1時間ほどの会議を重ね、「私たちって何のために(商用)メディア運営をやっているんだろう」ということをみんなで考えました。その結果、「サポーター」という立ち位置に行き着きました。

四谷編集長の異色の経歴:読者から編集長へ

加藤: 話が前後しますが、四谷さんのご経歴についてお聞かせください。今のポジションに就かれた経緯を教えていただけますか?

四谷: はい。元々は新卒で物流会社に入社しました。そこでウェブサイトの担当として、サイトを通じて営業を取ってくるような仕事をしていました。その当時、実はWeb担のサイトをよく見ていたんです。

読者としてよく見ていて、Web担が主催している有料講座にも事業会社側で参加していました。ちょうどその頃、転職を考えていたので、初対面にもかかわらず、当時の編集長の安田さんに「転職先なんかいいところありますか」と聞いたら、「うち今編集者募集してるんだけど来ない?」と言われて。

最初は「編集者って何するの?」みたいな感じだったんですが、Web業界のことをパッと知るには一番手っ取り早いかなと思って転職しました。そしたら、あれよあれよという間に編集長になっちゃったという感じです。

加藤:編集長になられてだいぶ経ちますよね。

四谷: 2018年からなので6年経っちゃいましたね。

この6年間で、業界も大きく変化しました。スマートフォンの普及やSNSの台頭、そしてAIやビッグデータの活用など、Web担当者を取り巻く環境は劇的に変化しています。そういった変化に合わせて、私たちのメディアも進化を続けてきました。

例えば、以前は主にウェブサイトの制作や運用に関する情報が中心でしたが、今ではデジタルマーケティング全般、さらにはビジネス戦略にまで踏み込んだ内容を提供しています。また、読者のニーズに合わせて、オンラインセミナーやウェビナーなど、新しい形式のコンテンツも積極的に取り入れています。

機械的なメルマガのような売り込みが増えている

加藤: 四谷編集長をはじめ、メディアの方がXで多く書かれている「広報あるある」みたいな内容について少し伺いたいです。広報担当者からのアプローチで、最近特に気になる傾向はありますか?

四谷: 最近多いのは、マーケティングの知識を持った広報担当が、メルマガ的に関係のないメディアに対して機械的に売り込みをしてくるというケースです。個人名で送っているように装っていても、実際には大量送信で、どこから連絡先を集めてきたのかわからないようなものも。

加藤: メルマガだと開封してもらえないから、個人を装うわけですね。そういったアプローチは効果がないんでしょうね。受け手にも迷惑ですよね。

四谷: そうですね。企画書が付いていても、Web担と全然関係ない内容の場合もあるんです(苦笑)。あまりにもひどいと、もうスパムフォルダーの方に振り分けられてしまって、たとえ良い内容があったとしても見逃されてしまう可能性が高いです。

加藤: では、実際に記事化や連載に繋がったケースは、どういったアプローチだったんでしょうか?

四谷: まず大事なのは、媒体が何をしたいのか、どういうことを求めて情報を記事として出しているのかをしっかり理解することです。例えば、広報との情報交換のMTGの際に、「この記事は反響が大きかったですね」とか「この切り口は他と違う気がするんですが、どういう意図があったんですか?」といった質問をしてくれる広報は、媒体のことを理解しようとする姿勢が感じられます。

そういった会話の後で、「私たちの会社ではこういうことをしています」という話に繋げてくれる方とは、その後の展開に繋がりやすいですね。

媒体資料を読んで良い関係づくりを

加藤: つまり、メディアをちゃんと読んで、媒体研究をしっかりしているかどうかが大きな違いになるわけですね。何も調べずにアポだけ取って自社の説明を始めたり「どんな媒体ですか?何に興味あります?」だと厳しい。

四谷: 本当にそれに尽きます。自分たちのことばかりPRして、すぐに答えを求めるような姿勢では、なかなか良い関係は築けません。お互いの時間を大切にし、相手の立場に立って考えることが重要です。

加藤: 新人の広報担当者はどうしたらいいでしょうか? 媒体研究をするにしても、読み解くのが難しいと思うのですが。私はよく広告主向けの媒体資料をダウンロードして目を通しましょう、ヒントがあります。と言っているのですが。

四谷: そうですね。媒体資料を読むことは、良いアプローチだと思います。それ以外にも、いくつかのステップを踏むことをお勧めします。

まず、関連メディアを定期的にチェックすることです。興味がなくても関係性が深いメディアを定期的に見てください。ランキング1位になっている記事をクリップして傾向を分析するのも良いでしょう。

具体的には、関連するメディアのトップページや人気記事ランキングを毎日チェックする習慣をつけることをおすすめします。そして、よく読まれている記事のタイトルや内容、使われている写真やグラフなどを分析してみてください。「なぜこの記事が人気なのか」「どういう切り口が読者の興味を引いているのか」といった視点で見ることで、そのメディアの特徴や読者のニーズが見えてくるはずです。

広報は代弁者。業界、自社、顧客を知らないとメディアに伝えられない

次に、自社と顧客について深く理解することが重要です。自社のトップセールスマンは誰か、外部で話せる人材は誰か、特定分野の専門家は誰かなどを把握してください。また、顧客の傾向や消費傾向などの細かい情報を理解することも大切です。

例えば、自社の製品やサービスがどのように使われているのか、実際の顧客の声を集めてみるのも良いでしょう。カスタマーサポート部門や営業部門と連携して、顧客の悩みや成功事例を集めることで、メディアに提供できる具体的で魅力的な情報が見つかるかもしれません。そこはメディアから見えない部分なので。

加藤: なるほど。単にプレスキットを用意するだけでなく、もっと深い自社の情報を把握する必要があるわけですね。

四谷: そうです。単にロゴを用意しておくとかだけでなく。広報担当者の役割を理解することも重要です。単なる情報提供だけでなく、社内の専門家の「代弁者」になることが大切ですね。例えば、企画が進む際に「この人物が詳しい」と紹介できても、その人の得意分野や経歴、具体的な実績、例えばこんな商談をやってきた、なんていうことを説明できないと、メディア側としては次のステップ(取材、寄稿依頼など)に進めません。広報担当者がその「代弁者」となり、詳細な情報を提供できることが重要です。

具体的には、社内の主要な人物や専門家とのコミュニケーションを定期的に取ることをおすすめします。彼らの最新の研究内容や、業界のトレンドに対する見解などを常にアップデートしておくことで、メディアからの急な問い合わせにも迅速かつ的確に対応できるようになります。

また、自社の製品やサービスについても、単なる機能説明だけでなく、それがどのように顧客の問題を解決し、価値を提供しているのかを具体的に説明できるようになることが重要です。これにより、メディアに対してより説得力のある、興味深い情報を提供することができます。

さらに、業界全体の動向にも目を向けることが大切です。競合他社の動きや、関連する法規制の変更、新技術の登場など、自社を取り巻く環境の変化を常に把握しておくことで、より広い視野からの情報提供が可能になります。

最後に、メディアとの関係構築には時間がかかることを理解し、焦らず着実に進めていくことが重要です。一朝一夕には結果が出ないかもしれませんが、継続的な努力が最終的には実を結ぶはずです。

(後編に続く)

(聞き手:加藤恭子 編集:広報デリ編集部)

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