ウェブサイト担当者のための情報サイト「Web担当者Forum(通称Web担)」の編集長、四谷氏へのインタビュー後編です。前編では、Web担の概要や四谷氏の経歴、メディアアプローチの傾向、媒体研究の大切さなどについてお話を伺いました。後編では、コロナ禍を経て変化したメディアとのコミュニケーション方法や、取り上げられやすい調査リリースについて、四谷氏の鋭い洞察をお届けします。
コロナ禍で変化したメディアリレーション。コミュニケーションが途切れて…
加藤: コロナ禍を経て、メディアとのコミュニケーションにも変化がありましたか?
四谷: はい、大きな変化がありました。コロナ禍でも継続的にコミュニケーションを取っていた企業とは、30分程度の定期的な情報交換を行い、製品のアップデートなどをタイムリーに共有できています。一方で、コミュニケーションが途切れてしまった企業もあり、関係性の再構築に苦労しているケースもあります。お互いに手探り感がありますね。
コロナ禍で、オンラインミーティングの活用が急速に進みました。以前は対面での打ち合わせが主流でしたが、今ではZoomやTeamsなどを使ったオンラインでの情報交換が日常的になっています。これにより、地理的な制約が減り、より頻繁にコミュニケーションを取れるようになった一方で、対面でのコミュニケーションで得られていた微妙なニュアンスや雰囲気の把握が難しくなったという側面もあります。
コロナ禍で一度途切れたコミュニケーションを再開する際は、お互いに慎重になっている印象があります。しかし、定期的に連絡を取り合っていた企業とは、短時間でも効率的に情報交換ができ、スムーズな関係性を維持できています。
効果的なメディアアプローチとは?
加藤: そのような中で効果的なアプローチについて、何かアドバイスはありますか?
四谷: メディアは読者のために記事を作っています。ですから、メディア理解=(メディアの先にいる)読者理解と同じなのです。まず、媒体の主な読者層を理解した上で、自社のサービスや顧客の共通する課題や悩みなどがあるかを探ってみると良いと思います。たとえば、「(広報)我々ではこんな傾向がありますが、Web担でもそんな傾向はありますか?」といった質問をしてみるのはどうでしょうか。個人的に「さすがだな」と思う広報は、説明力よりも質問力が高いです。
ただ、勘違いしないでいただきたいのは、会社紹介やサービス紹介はメディアに正しく会社・製品理解をしてもらうためには重要なので省く必要はありません。そういった意味では説明力も大切ですが、会社説明のあとは一歩踏み込んで、質問力を発揮してメディア側にあの手この手を使って、しゃべらせる工夫をすると、単調な情報交換から抜け出せるかもしれないです。
具体的には、単に新製品の情報を提供するだけでなく、その製品がウェブ担当者の日常業務にどのような影響を与えるのか、具体的な使用シーンやメリットを交えて説明していただけると、記事化へ近づくかもしれません。
また、定期的なコミュニケーションを心がけることも大切です。短時間でも定期的な情報交換の機会を設けることで、良好な関係を維持できます。例えば、四半期に一度程度、15分から30分程度のオンラインミーティングを設定し、最新の業界動向や自社の取り組みについて情報交換を行うのも良いでしょう。
最後に、メディアにあった質の高い情報を提供することです。自社や業界の深い理解に基づいた、価値ある情報を提供することが重要です。単なるプレスリリースの転送ではなく、そのニュースの背景にある業界動向や、具体的な事例、数値データなどを交えて説明していただけると、より魅力的な情報源となります。
企画の持ち込み、メディアはうれしい?
加藤: 企画を持ち込まれるPR会社の方や広報担当も多いと思います。企画を持ち込む際、どの程度まで作り込んで提案するのが良いでしょうか?ここってすごく意見が分かれるところで、「もうこれで連載が始められそうだ」「このまま記事化できそう」という部分まで作り込んだものをうれしいと思うケースもあれば「いや、メディアの領域にこんなに入り込んでこないで。企画のタネだけでいい」というケースもあると聞きます。
四谷: 個人的には、よく練られた企画案は嬉しいですね。媒体のことをよく理解した上で企画を立てていただいているのが伝わるので、とてもありがたいなって。ただし、メディアによって好みが分かれる部分でもありますね。
重要なのは、最初からすべてを決めつけるのではなく、コミュニケーションを取りながら進めていくことです。オンライン会議やメールでのやり取りを通じて、お互いの考えを擦り合わせていくプロセスが大切です。
企画書を一方的に送付するのではなく、まずはオンラインでの簡単な打ち合わせや、メールでの事前のやり取りを通じて、相手の要望や方針を探ることが重要だと考えています。
また、企画を持ち込む際は、時間的な制約も考慮する必要があります。お互いに忙しい中で、最初から詳細な会議を設定するのは難しいかもしれません。そういった場合は、まず簡潔な企画書から始めて、徐々に詳細を詰めていくアプローチも有効です。
「ネタがない時の救世主?」調査リリースの活用と注意点
加藤: 近年、調査リリース(企業の新発表ではなく、アンケートを実施してその結果をまとめて発表するプレスリリース)が増えていますよね。「ネタがない時は調査リリースだ」という人もいますし、調査リリース作成専門の代行サービスも出てきています。調査リリースという手法が増えすぎて、玉石混交になっていると思うのですが、メディア側からはどのように見られているのでしょうか?
四谷: Web担でも調査ニュースは非常によく読まれています。例えば、Yahoo!ニュースで数百万PVを獲得するなど、どかーんといっちゃうケースもあります。そのため、質の高い調査リリースは優良なコンテンツであるのは間違いないです。
ただし、質の高い調査リリースを選別するために、いくつかの点に注意しています。
まず、調査概要がしっかり記載されているかどうかを確認します。次に、適切なサンプル数があるかどうか、例えばn数が200以上あるかなどをチェックします。
また、グラフや数字の恣意的な解釈がないかも重要なポイントです。
さらに調査テーマと企業の専門性の関連性も考慮します。例えば、メール配信サービスを提供している会社がメールの利用実態を調査するのは自然ですが、突然、夏休みのレポート作成に関する調査を行うのは違和感があります。
調査リリースは有効なコンテンツになり得ますが、一定のクオリティを満たすことが重要です。また、企業の専門性とかけ離れた内容や、無理やり製品・サービスの宣伝につなげようとするものは避けるようにしています。
場合によっては、恣意的な解釈を避け、グラフから客観的に読み取れる事実のみを記事化することもあります。
加藤:調査リリース自体は皆の関心のある重要なコンテンツになり得るけども、 やるためにはある一定のクオリティを超えていかないとピックアップされないっていうことですよね。「各メディアのランキング上に調査リリースが来てるからうちもやろう!」みたいな、そういう簡単なノリでできるものじゃないんですよね。
広報活動の本質:メディア露出を超えた価値創造
加藤: 最後に、新人広報担当者へのメッセージをお願いします。
四谷: 新人広報担当者の方々へのメッセージとしては、まず、メディアに取り上げてもらうことだけが仕事ではないということを強調したいと思います。自社の目的に対して、メディアとどのような関係を築くべきかを考えることが大切です。
また、現実的な期待値を持つことも重要です。Xにも書いたんですけど、私たちの媒体では1日に1000件ほどのリリースが来て、そのうちストレートニュースとしてピックアップできるのは3〜5本程度なんです。このような現実を理解した上で、戦略を立てることが重要です。
そして、広報活動の本質的な目的を常に意識することも大切です。単にメディアに取り上げてもらうだけが仕事じゃないですよね。メディアとどういう関係を築けば、自分たちの目的に近づけるのかをまず考えなきゃいけないわけで。前述のニュース記事だけでなく、編集記事も月に40本くらいしか出していないので、その中に入り込んでいくのはなかなかシビアな世界です。難しい戦いだということを理解した上で、自分たちが本来やるべきことは何だろうかと目的を振り返って、施策を考える必要があると思います。
最後に、長期的な関係構築を目指すことをお勧めします。一時的な露出よりも、継続的で信頼できる関係性を築くことを重視してください。これは時間がかかる作業かもしれませんが、長期的には必ず実を結ぶはずです。
広報の仕事は、単にメディアに取り上げてもらうことだけではありません。自社の目的を達成するために、どのようなメディア戦略が効果的かを常に考え、ステークホルダーにとって価値ある情報を提供することを心がけてください。
加藤: 四谷編集長、多忙な中、貴重なお話をありがとうございました!このインタビューが、多くの広報担当者の方々にとって有益な情報となることを願っています。
(聞き手:加藤恭子 編集:広報デリ編集部)
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