広報デリの人気シリーズでもある編集長インタビュー。今回はIT活用とビジネス成長を支援する情報サイト「EnterpriseZine」(翔泳社)の編集長、岡本拓也氏のインタビューをお届けします。
ニュースサイトの経験、IT業経験が今、活かせている
ビーコミ加藤: 今日はありがとうございます!取材を楽しみにしていました。早速ですがまずは簡単に略歴を教えていただけますか?
岡本編集長: はい。私は現在31歳で、翔泳社に入社して5年ほど経ちます。学生時代には外国語を専攻し、大学卒業後はコンシューマー向けのニュースサイトで記事の更新などを担当していました。その後、 医療系のシステム開発やWeb系の開発会社を経て、IT業界の仕組みも学んでいきました。これらの経験は、今、エンタープライズIT分野の記事を書いたり編集したりする際に活きています。特にEnterpriseZineでは、技術的な内容も扱いますので、この経験が記事の質を高めることにつながっていると思います。
ビーコミ加藤: なるほど、今までの様々な経験がEnterpriseZineにつながっているのですね。現在のEnterpriseZineの体制や特徴を教えてください。
岡本編集長:私を入れて6人体制です。人も増えてきたので、編集長になることになり、編集長になって2年目くらいですね。
EnetpriseZineの特徴を一言で言うと、「ITリーダー向けのメディア」です。このITリーダーの定義が、まさにエンタープライズITの歴史を表しています。創刊当初の18年前は情シス部門の部課長がITリーダーでしたが、最近は事業部側にもテクノロジーがわかる人材が増えており、DXやデータドリブンの流れで、ITリーダーの定義が広がってきました。そのため、今では情シス/IT部門の方だけでなく、DX推進部門や事業部の方々にも読んでいただいています。
プレスリリースをXXXするだけの企業が増えている
ビーコミ加藤:企業のDX推進部門や事業部の方にも読者層が拡大しているのですね。編集長として色々な企業の広報担当者やPR会社の人と接すると思うのですが、最近の特徴的な傾向はありますか。
岡本編集長:ここをお話できることを一番楽しみにしてました(笑)。最近、加藤さんもFacebookに投稿されていたと思うのですが、プレスリリースを投げつけるだけの広報担当者が、ここ3〜4年くらいでちょっと増えてる印象を受けるんですよね。
ビーコミ加藤: 「投げつける」だけというのは、説明会や取材の機会がなくて、「プレスリリースと素材をボンって送りつけて、あとは好きにやっといてくれ」みたいな、そんな意味合いですよね。
岡本編集長: そうです。プレスリリースを出しただけ、それで、会見の案内や事後の資料も、何もコミュニケーションを取らずに送ってくるんです。そもそもなぜうちに送ってきたのか、なぜ読んでほしいのか、この資料の意味は何なのか、何もわからないままっていうのが結構あるんです。こちらとしてもコミュニケーションが取れないので、わざわざ何かしようとは思わないですよね。
個人的にはもったいないなと思っています。広報イベントなどで出会った広報さんがたくさんいる中、うまくコミュニケーションを取って、お互いにウィンウィンになるような形で取材ができている人って、10人に1人くらいという感じですね。
単に記者の名刺集めになっていないか
ビーコミ加藤:コロナ禍が一段落し、広報担当者とメディアの交流会も盛んに行われていますよね。これ自体はすごく良いと思うのですが、メディアの名刺を集めて自社の記者データベースに登録することが目的化している気がします。
岡本編集長: ありますね。でも、メディアとしては直接その会社の広報さんとリレーションを築きたいってのはあると思うんですよ。BtoBでもBtoCでも。名刺交換して、話したこともあるのに、淡々とプレスリリースが送られて来るだけみたいなのは、もったいないなって思います。メディアと積極的にコミュニケーション取る担当者がいると、話もできるし、会見も呼ばれたら行くし、取材もするし、どんどん継続的なリレーションが築けるんです。
ビーコミ加藤:確かにもったいない話ですね。せっかく覚えてもらえるチャンスだと思います。
名刺交換したら必ずXXXする!
岡本編集長: はい。それで、名刺交換をした後は、早めに何らかのコミュニケーションを取っていただきたいです。メッセンジャーでも構いません。時間が経つと互いに忘れてしまうので、突然連絡が来ても対応しづらくなります。定期的に簡単なメッセージでも良いので、コミュニケーションを続けることが大切です。
ビーコミ加藤: なるほど。当社も反省すべき点があります。なかなかその記者に合うネタがなくて、数年ぶりに連絡したこともありましたから。
岡本編集長:「こういう記事を拝見しました」とか「また情報があればお知らせします」といった簡単なメッセージでも十分です。定期的にそういったコミュニケーションを取ることで、関係性を築けると思います。
ビーコミ加藤: 今すぐに記者に合致するネタがなくても、関係性が築けるよう、コンタクトを取り続けることが大切なんですね。
岡本編集長: はい、そういった小さな積み重ねも重要な技術の一つだと思います。それから、コミュニケーションを続けてきた広報担当が辞めたり、あるいは会社の方針が変わった瞬間に急に音信不通になったりすることがあります。そうなると、メディアとしても最新の情報が入ってこないので、取り上げることもなくなって、だんだん忘れていきます。これまでの関係が0になっていくんですよね。これもすごくもったいないですよ。
大量のプレスリリースの中で見つけてもらう方法
ビーコミ加藤:広報担当の中には、メディアの人にあんまりしつこくすると嫌われちゃうといけないからうちはプレスリリース送るだけです、みたいな方もいるんですけど、メディア側として嫌なのは、プレスリリース送ったんですけど見てくださいとか、全然媒体に関係ない内容を何度断ってもしつこく電話してくるみたいな、そういうのが嫌なだけで。ちゃんとした意見交換ができるとか、適切な情報がもらえるとかだったら別に嫌じゃないんですよね。
岡本編集長: その通りです。うちのメディアの場合、1日に何百通ってメールを受け取ります。全て見られるわけがないですよね。だからこそ、確認するのは、普段からコミュニケーションを取っている広報やマーケの方から来ているメールです。それを読んで面白いなと思ったら載せることもあるし、取材に繋がることもある。
淡々とプレスリリースをただ単に送り続けても、ほとんど見ないし、こちらとしても、なんなのかよくわからないっていうのもあります。あとは、電話やメールで、単純に「リリースを読んでください」って言われても、なんだろうって思いますよね。その情報をなぜうちに掲載してほしいのか、掲載した時にどういう読者さんにどういう情報を提供するきっかけになるのかぐらいは、一言でいいので添えてあったら納得できるんですけどね。
「メディアは広報代理店の無料コンサルじゃない!」
ビーコミ加藤: なるほど。ところで、広報代理店(PRエージェンシー)とのやりとりはどうですか?
岡本編集長: 広報代理店は本当に玉石混交だなと思います。会社単位でも個人でも。少しネガティブな話になりますが、4月になると、また新入社員からよくわからない電話がいっぱいかかってくるんだろうなと思うわけです。
新人が入ったからと電話やメールしてきて、まずは情報交換しましょうと言われてその場に行くと、1時間ひたすらどういったものをメディアに載せたら読まれるのか、何だったら取り上げてもらえるのかっていう、一方的に情報を提供するだけの、こちらが無料コンサルみたいな時間になっていることも多いんですよね。
ビーコミ加藤: それはちょっとひどいですね。会社の社員教育を、メディアに無償でやらせてしまっている。せめて各社のそういう新人でみんなで1か所に集まって、1回で終わらせてほしいですよね(苦笑)。
プレスリリースはXXXしてから送る!
岡本編集長: そうそう、そうなんですよ。それから、記事を全く読まずにプレスリリースは送ってこないでほしいですね。関係ないってわかっても、とりあえず送っておくかっていう方もいらっしゃるのかもしれないけど。この人(企業)は、うちの媒体のことはわかってないなっていう印象がついて逆効果になります。
ビーコミ加藤: そうですね。せめて関係あるプレスリリースを送ってほしいですね。それから、この間ツールを使ってメディアを効率的に管理せよみたいなブログを見たんです。時間をかけずにメディアに効率的に記事を書いてもらうために、リストを作って、自動送信メールを送り分けようとか、反応があった人に送るステップメールを設計して自動で返信しようみたいな内容で。そういった「タイパ」を重視した自動化だけをやっても多分うまくいかないんですよね。
業務効率を上げるのはいいけど、自動送信メールはバレる!
岡本編集長: そうですよね。広報業務の効率を上げようっていうのは悪いことではないと思います。我々が思ってる以上にいろいろな業務がたくさんあって、しんどいんだろうなっていうのもわかります。ただ、ツールの運用だけに注力するとなると、ちょっと違うのかなっていうのは感じますよね。
ビーコミ加藤: そうですね。私もツールの活用自体を否定するつもりはないのですが、ツールを使うにしても、この人とは対面でやらなきゃとか、このメディアは見込み客にもっともリーチできる最重要メディアだから自動化じゃないやり方があるよねとか、もうちょっと工夫する余地もありそうですよね。
岡本編集長: あると思いますね。自動メールも結構届くんですよね。でも、やっぱりわかります。読んでいると、宛名を変えて中身を少し寄せているだけで、一斉送信してるなとか思うので、そこは違うアプローチが必要なんじゃないかなって思います。
新人広報担当者へのアドバイス2つ
ビーコミ加藤: 今日は岡本編集長からたくさんの貴重なお話を伺うことができました。最後に、新人広報担当者に対して特に強調しておきたいアドバイスはありますか?
岡本編集長: はい、大きく2点あります。1点目は、自社のことをしっかり知ってほしいということです。新人の方は自社の製品やソリューションについて詳しくない場合が多いのですが、それらがどういうものなのか、どういう歴史を経て今に至るのかを理解することが大切だと思います。
その上で、社内でコミュニケーションを取り、各製品や分野に詳しい人を把握しておくといいですよね。広報担当者自身が全てを知る必要はありませんが、必要な時にすぐに適切な人材を連れてこられるようにしておくことは重要だと感じます。
そして2点目は、自社の製品やソリューションを理解した上で、その分野に強いメディアを見極め、媒体資料を読むこと。メディアの記事をしっかりと読んでほしいと思います。
ビーコミ加藤: なるほど。単にメディアの名刺を集めてプレスリリースを送るだけではなく、自社を知り、メディアを知ることが大切なんですね。
岡本編集長: その通りです。自社を知り、メディアをよく知る。そこに尽きると思います。
ビーコミ加藤: 本日は貴重なお話をありがとうございました。広報担当者にとって大変参考になる内容だったと思います。岡本編集長のインタビューを通じて、メディアとの継続的なリレーションの重要性をご理解いただけたのではないかと思います。。単に記者の名刺を集めてプレスリリースを送るだけでなく、自社の理解を深め、適切なコミュニケーションを取り続けることが、効果的な広報活動につながるというメッセージは、多くの広報担当者にとってメディアとの関係性をさらに良くしていくために役立つと思います。ありがとうございました!
(聞き手:加藤恭子 編集:広報デリ編集部)