前編:広報のメカニズムを提供〜唯一無二のポジションへ。元メルカリ矢嶋さんインタビュー

前編:広報のメカニズムを提供〜唯一無二のポジションへ。元メルカリ矢嶋さんインタビュー

6月に株式会社はねを設立した元LINE、元メルカリの矢嶋氏。

本サイトの発行人である加藤がオンラインインタビューを行った。まずは前編、矢嶋さんの略歴を中心にをお届けする。

PR業の最新情報を伝えるメディアがない

加藤:一旦取材の経緯を説明させてください。今、弊社のインターンなどが中心になって、PRデリというサイトを作ってるんです。細々と。

矢嶋:すごいしっかりやってらっしゃいますね。

加藤:まだちょっと、恥ずかしいレベルなんですけどね。手作り感のある。

広報PR界隈では、ご存知のように、広報会議というメディアがあって、これが広報PRのメディアのデファクトスタンダードになっている。広報やってる人に何読んだらいいですかって言われたら私も「広報会議」をおすすめしていて。何度か寄稿させてもらったりしてお世話になってるメディアです。でも、PR業の動向や最新ニュースを日本語で伝える専門メディアがないんですよ。

矢嶋:確かに。そう言われてみるとないですね。

加藤:もちろん、PR会社のオウンドメディアはあります。でもそれぞれ別々に作ってるから、色々なPR会社の最新情報が網羅的に載ってるサイトはないんです。それで、とりあえずやってみようということになって、PR関連会社のプレスリリースを元に短いニュースを発信するサイト「広報デリ」が始まったんです。海外だとPR Weekみたいなサイトがあるものの、日本語版はない。

矢嶋:確かに。

加藤:そんなわけでどことも競合しないサイトとして、PRデリをひっそりとスタートさせて、プレスリリースから短い記事を起こしてたんですが、誰も見にこないわけです。ところが、先日SCALEの短い記事に、本田さんと鈴木勇夫さんのコメントをもらって掲載したんです。そうしたら急にページビューが跳ね上がった。つまり、みんなが注目している大きなネタや人物にフォーカスしていかないとダメだ、と改めて思って。みんなが知ってる業界の有名人といえば、矢嶋さんにお願いしよう、となったんです。

矢嶋:ありがとうございます。

■マーケティングからキャリアをスタート。留学でPRと出会う

加藤:それは良かったです。まずは、知っている方も多いと思うのですが、略歴からお願いできますか。

矢嶋:2000年に大学卒業後、新卒でスタートアップの会社に入社し、2社で4年間マーケティングの仕事を経験しました。でもマーケティングの世界は広くて、自分の専門性が何かわからなくて、自分のスペシャリティを見つけるために会社を辞め、2004年にニューヨークに1年間留学しました。

ニューヨークでは日中ニューヨーク大学の語学学校に通いながら、夜は同大学のエクステンション講座でマーケティングや経営について学びました。その中でPRの領域に興味を持ち、さらにデジタル化が進む中でPRの手法やアプローチが変化していくことに魅力を感じました。自分の持っているITやネットの知識と、自分の関心があるコミュニケーションの経験を組み合わせたら、ユニークなキャリアを構築できるのではないかと思い、帰国後にPR会社に入社しました。

最初は日系のPR会社であるビルコムでPRキャリアをスタートし、主にスタートアップ企業の広報支援を担当しました。その後、外資系のPR会社であるエデルマン・ジャパンで大手外資系企業向けの広報支援業務を経験しました。その後、エデルマンで仲良くさせていただいていたクライアントの方から、韓国の検索ポータル「NAVER」の日本事業立ち上げをやるので一緒にやらないかとのお誘いを受け、2008年12月に日本法人であるネイバージャパン(現LINEヤフー株式会社)に入社し、日本進出に向けたマーケティングPRの全体戦略や実行を担当しました。

その後、キュレーションサイト「NAVERまとめ」が急成長したり、国内ポータルサイト大手であるライブドアを子会社化したりと、様々な取り組みを行っていたものの、競合サービスの牙城は高く、日本市場撤退かも、という状況の中で2011年に起死回生を狙って立ち上げたスマートフォン向けコミュニケーションアプリ「LINE」が大ヒットしました。私はPRやマーケティングの責任者として、SNSやブランディング、グローバル広報など含めて幅広いコミュニケーション領域を担当し、2016年7月には日米同時上場も果たしました。チームメンバーの数も50名以上に拡大し、自分の中では一定やりきったなと思いまして、2017年8月に退職しました。

その後、2017年10月にメルカリに入社。当時のメルカリは現金出品やその他不適切出品問題などで厳しい報道が相次いでいました。上場も控えている中で、広報責任者として社会からの信頼回復に向けた取り組みを行うとともに、上場に向けてどうレピュテーションを向上させていくか、全体のコミュニケーション戦略策定から実行まで担当しました。

全てが思う通りにいったわけではありませんが、上場という世間的に注目を浴びるタイミングで話題を最大化し、これまでの「イケイケの急成長ベンチャー」から「日本からグローバルに挑戦するテクノロジーカンパニー」へとポジティブなパーセプションチェンジ(認識変容)を実現することができたのは、自分にとっても良い成功体験になりました。

その後、鹿島アントラーズの買収、スマホ決済サービス「メルペイ」のローンチ、さらにコロナ禍におけるマスクの高額転売事案の発生〜信頼回復など、コーポレートやサービス含め様々な経験をしました。私の入社時は2名のみであった広報メンバーも、退職する頃には15名ほどへと拡大し、チームとしても安定的に成果を出せる広報体制が整ってきた中で、今年メルカリは10周年を迎えました。次の10年は他のメンバーにバトンを渡し、自分は新たなチャレンジをしようと思い、3月末に退職をしました。

そして6月に株式会社はねを設立。現在は戦略広報のコンサルティングとコーチングを主に行っています。

■信頼回復とリスク対応経験のあるユニークなキャリア

加藤:ありがとうございます。矢嶋さんの経歴を振り返ってみると、信頼回復とリスク対応の経験が多く、それは他の多くのPRパーソンが持っていないスキルだと感じます。特に、LINEの成長過程や不祥事への対応が、メルカリでの信頼回復対応に繋がる貴重な経験となったのではないでしょうか。

矢嶋:そうですね。信頼回復やリスク対応は、場数がものをいう世界だと思います。特にLINEでは、サービスが急成長していく過程のなかで、「LINEいじめ」など不適切な利用でバッシングを受けることも多々あり、たくさんの経験を積むことができました。ただ、当時の自分の中では、体感的に学んだもので再現性があるかは未知数でした。、メルカリに入ってから、(LINEのときの経験をもとに)こういうフェーズだからこうやったらいい、と仮説を立ててやってみたら、それが仮説通りにうまく行ったことが一つの成功体験になりました。

加藤:スタートアップやベンチャーの世界では、どうやって有名になるかや周囲を巻き込んでユーザーを増やすかに目が向きがちですが、リスク対応は後手後手になりがちですよね。

矢嶋: そうですね。私が新しく立ち上げた会社のミッションは、「本気で社会を変えたい会社に寄り添う」というものです。会社はいい時だけでなく、成長していく過程で意図せぬ不適切利用など社会からの軋轢を受けることもあります。特に新しいサービスやテクノロジー、イノベーションは社会からのバッシングを受けやすいです。そういった社会からの要請や軋轢にも真摯に向き合い、適切に合意形成しながら社会に浸透していく必要があります。私の会社では、そういった「本気で社会を変えたい」会社に寄り添い、伴走しながらサポートしていけたらと考えています。スタートアップ業界に限らず、せっかくいいサービスを展開しているのに、社会の風を読み違えてしまったり、社会からの軋轢に屈してしまったりした結果、一過性のブームで終わってしまうケースが少なくありません。それは非常にもったいないことだと思うのです。

加藤:なるほど。スタートアップはグレーゾーンを攻めながら新しいことに取り組むことが多くあります。そのため理解が得られない場合もあるでしょうね。

矢嶋:そうですね。リスク対応や危機管理は急に訪れることもあり、そうなると経営陣も含めて、どうしたらいいかわからないことが往々にしてあるので、自分がLINEやメルカリで培って経験が活かせる部分があると思っています。

後編に続く

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)

構成:松尾(ビーコミインターン)、宮川歩、高梨杏奈

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