後編:広報を起点に企業価値を高めたり、事業機会の最大化に繋げたりする概念や考え方を広めたい(矢嶋さんインタビュー)

後編:広報を起点に企業価値を高めたり、事業機会の最大化に繋げたりする概念や考え方を広めたい(矢嶋さんインタビュー)

6月に株式会社はねを設立した元LINE、元メルカリの矢嶋氏。

本サイトの発行人である加藤がオンラインインタビューを行った。後編では、自社のポジショニングや広報と経営、戦略PRなど様々な話を伺った。良い内容も多いので、無理にカットせずにほぼそのままお届けする。

プロフィール紹介が中心の前編はこちら

■広報のメカニズムを提供〜唯一無二のポジションへ

加藤:スタートアップ向けの戦略や支援を提供するコンサルタントや会社がこれまであまりなかったのかもしれませんね。

矢嶋: そうですね。総合PR代理店は、戦略立案から実行まで丸ごとお任せできる安心感がある反面、スタートアップ企業にとってはフィーが高額だったりします。また、特定領域に特化した小規模PR代理店や個人で伴走コーチ型のサービスを展開しているフリーランスの方もいますが、どちらかというと戦略というよりも戦術が中心だったり、実働の代行だったり等、「やり方(How)」に特化したサポートが中心であることが多い印象を受けています。。そんな中、中長期的な戦略立案方法の整理、自律的な広報のメカニズムを伴走型で提供することが弊社のユニークなポジショニングだと思っています。最終的には、戦略広報のOSをクライアントにインストールさせていただいて、自分がいなくても広報組織としてしっかりと回るようにできたらと思っています。

加藤: なるほど。本当に独自のポジショニングですね。

矢嶋:現在のフォーカスエリアは明示的に出していない部分もありますが、主にポストIPOやミドル~レイタ―期のスタートアップ企業の支援に取り組んでいます。わかりやすいケースで言うと、事業が急成長して上場を意識し始め、いよいよ会社の信頼度や「格」を上げたい、というタイミングでお声をかけていただくというケース。それ以外にも、上場以降、資本市場とも向き合いながら、過去のイメージから脱却し、新たな企業イメージの構築を目指していくフェーズにおいて、経営陣も含めてディスカッションさせていただきながら、現場の担当者と寄り添って形にしていくというケースもあります。

■矢嶋事務所ではなく「はね」の理由

加藤:御社のサイトを拝見したんですが、私は、ではなくて、「私たちは〜」と書いてあるじゃないですか。これって個人事務所でなく、矢嶋さんの考えに賛同する仲間がどんどん増えていく、という将来を表しているんでしょうか。

矢嶋:僕が独立してやりたいことは、広報を起点にして、企業価値を高めたり、事業機会の最大化に繋げたりする概念や考え方を広めたいっていうことです。僕の人格とは切り離す意味もあって、「矢嶋事務所」にはしなかったんですよね。

実際にやってみないと、自分の考えているアプローチがうまくワークするかわからないので、まずは一人でスタートしています。やってみた上で、僕の考えに共感してくれる方が手を挙げてくれたり、自分じゃなくても他の方におまかせ出来そうな部分が増えたり、事業規模を拡大できそうであれば今後人を増やすという選択肢もありうるかなと思っています。

■本質的な広報事例の発信がもっとあってもいい

加藤:メルカリは広報で何をやってきたかを積極的に発信してきた企業だと思うのですが、広報に関する情報発信についてはどういう思いがありますか?

矢嶋:この会社は広報起点でステージが変わったよねとか、企業価値が上がったよね、といった事例をたくさん増やしたいという思いがあります。ひとり広報で現場目線の情報発信をしている方は多くいますし、それはそれで良いと思うんですが、経営や事業の課題に対して、広報担当者としてこういう形で企業価値の向上や課題解決に貢献してきましたと当事者目線で発信をする方がも増えてほしいと思っています。

■マーケと違って広報は黒子?脇役?

加藤:広報があまり積極的に情報発信しない傾向があるのは、「広報は黒子」という認識も影響しているのでしょうか。

矢嶋:広報は黒子であるべきなのは役割上はそうですよね。ただ、業界全体を底上げしていくためにも、そして経営層から「広報って大事だよね」と思ってもらえるようにするためにも、実際に企業価値を上げてきた広報実務者の発信を増やす必要があると思います。

加藤:どうして増えていかないんでしょう。企業価値を上げる広報活動に貢献している人はいるけど、事情があって公開できないのかもしれないですね。他方、マーケティング業界は情報発信が多いですよね。マーケの人は積極的に発信をするスターをみんなで盛り上げ、拡散もする。なぜか広報はそうなりにくいよねと、先日別の場でも話題になりました。

矢嶋:めちゃくちゃそうですね。マーケの人たちはみんな発信力が高いし、カンファレンス等の場がたくさんあるからかもしれないですけど、積極的に自分たちの知見や活動をシェアしている印象があります。それと比べると、広報って、SNS等で広報担当者間での発信はあるけれど脇役に徹しがちというか、自分たちの価値を経営層まで届けることに対する遠慮がある気がしています。

加藤:そうですね。SNSでも複数の広報担当者でランチして、集合写真を載せる…と言ったものは見受けられますよね。

矢嶋:広報担当者間で積極的に情報交換すること自体は良いと思いますし、「広報とはこうあるべきだ」といった発信をすることも良いと思うんですが、そこから一歩目線を上げて、いかに経営や事業に対して影響力を上げていくか、とか、こういう戦略を実現したとか、これやってなかったら企業価値上がってなかったよねとか、そういう発信がもっと増えていくと良いかなと思います。

加藤:やはり、言えない、公開できないってことなんでしょうか。

矢嶋:それもあるかもしれません。メルカリのオープンなカルチャーに影響され過ぎているかもしれないですが、言える範囲でも構わないから情報を積極的に発信していくことで業界全体のレベルが上がることは絶対あると思うので、もっと皆が知見を共有できるようになるといいですね。そこを支援していきたいです。

■現場広報は言語化しながら上を目指せ、経営を学べ!

加藤:今、現場で広報をしている人はどんなところを目指すのがいいんでしょう。

矢嶋:まずはマネージャーや役員など上のポジションに上がっていくことを目指すのが良いと思います。ポジションが上がれば上がるほど、管掌範囲が広がって視野も広がりますし、経営視点も持てるようになります。また、チームメンバーを持つことによって、自分の知識やノウハウを言語化する能力も上がると思うんです。さらに外でも発信した方がいい。自社に対する予備知識が無い社外の人たちに対して、自分の知識を棚卸しして、体系化して伝える経験を積むという点で有益です。そうすると、チームや社外にもノウハウがシェアされて、業界としての知見も上がる。そしてメンバーの育成や、自律的にチームが回るようにするところでも、絶対に生きてくる。再現性をいかにチームとして持たせるかが大事だと思います。

加藤 :これはそのまま、今広報に関わっている若手へのメッセージでもありますね。

■戦略PRの学び方

矢嶋:若手からは「読んだ方がいい戦略PRの本ありますか」とか「戦略PRの力を身につけるためにはどうしたらいいんですか」という相談をよく受けます。個人的には、PRのテクニカルなスキルを学ぶのも大事ですが、経営・ファイナンス・マーケティングなど、経営や事業についても同じくらい学習をした方がいいと思ってます。

結局、経営層や事業部から頼られるような存在になるためには、経営や事業の観点で見て、広報がどう貢献するかを説明できないといけない。広報として貢献していくために、こういう戦略で、こういう成果を実現していきます、と説明できないと、なかなか信頼されないと思います。

広報の知識・スキルを上げるというのも大事だけど、事業や経営のことをより深く学ぶ方が、次のキャリアというか、戦略広報を行う上では必要なのではと思います。

加藤:プレスリリースがうまく書けるとか、PRプランナーの資格を取ると言った「広報の現場の技術を上げる」ことも必要だけど、会社はこういう仕組みになっている、ということも知っていかないと、ってことですよね。

矢嶋:そうですね。そこの解像度が上がると、打ち手も変わってくるはずです。経営や事業部から依頼されたオーダーにそのまま表面的に応えていくのではなくて、会社として3年後、5年後どうしたいんだっけ、じゃあ逆算して何やろうとか、もうちょっと俯瞰的にやれるようになると思います。この経営や事業に対する解像度がどれくらい深いか、みたいなところはPRパーソンとして非常に重要ではないかと思います。

加藤:本当にそうだと思います。それができてる人が少ない。実際はいると思うけど、あんまり出会わないというか。

■頑張っても経営層に認められない、広報担当者に足りない「マインド」とは

矢嶋:スタートアップの経営者の方とお話しする機会が多いのですが、よく言われるのが「現場の担当者、めちゃくちゃ頑張ってるんだけど経営マインドが足りないんだよね」っていう話です。どうも目線が合ってない感じというか。現場の担当者は露出を増やすことを頑張っているんだけど、経営者としてはいかに経営や事業に効かせるかが大事で、露出はそのための手段。極論を言えば、表面的な露出を100個取ってくるよりも、経営者はむしろ1発でもいいから、大きなホームランを打って事業に効くような露出を取ってくれた方が実際ありがたかったりすることもあります。この目線感が合ってないのは、結構ジレンマとしてありますね。

加藤:経営者の目線と担当者の目線のギャップを埋めていくようなことを、矢嶋さんのコーチングでやっていく?

矢嶋:そうですね。そこを翻訳するみたいなところも、自分の役割かなと思います。

加藤:広報担当者へのコーチングをする。経営者の方の目線を広報寄りにするのでなく、広報担当者に対して行うと。

矢嶋  そうですね、経営者が思ってることを現場の広報担当者に翻訳して落としてあげる。会社としてのありたい姿は、経営者から聞かないとわからないところもあるのでそこをヒアリングして引き出して、じゃあこれを実際の広報戦略に落とすとこういうことだよね、みたいな感じで経営と現場を繋いでいくところが自分の付加価値の一つなのかなと思います。

加藤  メルカリで培って、成果を上げてこられた事を、もっと皆さんに届けようという感じで、今回ビジネスをスタートされた?

矢嶋 皆さんに届けよう、というのは若干恐縮ではありますが、意図としてはそういうことですね。実際やっていることは、メルカリでやってきたことと変わってないんですよね。経営層とアライメントして、それを現場に落として、それがちゃんと形になるようしっかりと発信の角度を付け、フォーカスエリアの絞り込みを行いながらフォローアップしていく、というのが活動の主になります。

■今は本は出さない。なぜなら・・・

加藤  今聞いた話だけでもう本になりそう。本は出さないんですか。来年の1月ぐらいに出てきたりする?より多くの人に考えを届けられそう。

矢嶋  自分の中でのアプローチとか考え方は、外部で話したりする中で一定まとまってきてはいるんですが、今出しても「それってLINEやメルカリだからできたんでしょ」っていう風に思われてしまう気がしており、まだそのタイミングではないのかなと考えています。LINEやメルカリじゃなくても、BtoCじゃなくても、BtoBの会社でも、同じようにできるんだっていうのを、実例をあげられるようにしないと、納得感がないのかなと思っています。

加藤  そうですかね。

矢嶋 LINEやメルカリじゃなくても、今お付き合いしてるお客さんで、実際にうまくいってるケースはあるので、再現性はあると思っています。ただ、実例がないと人は信じないですよね。外部で講演したりすると「BtoBだとどうなんですか」と聞かれることも多く、BtoCとBtoBは全然別だと思ってる方が結構いらっしゃって。考え方は一緒だと思うんですけどね。

加藤 考え方は一緒だけど、表面上の見え方や細かい部分が違うから、BtoBはなんか別物って思っちゃってる。

矢嶋  そうですね。あと、メディアへのアクセスのしやすさとか。

加藤  そこは確かに違いますね。

■広報の価値を上げる

矢嶋  広報って手段が目的化しやすく、目の前の露出を積み上げた先に、ありたい姿に近づくよねと思いがちなんですけど、最初から角度つけて方向性を決めておかないと、絶対そうはならないと思うんです。そういう考えを多くの会社にインストールしていきたい。結果的にそれで企業価値上がったよね、っていう風に思われて、社内からも社外からも評価される広報担当者がたくさん出てくるのが僕の理想ですね。

加藤  そうですね。広報のすごい人が世の中にたくさん出てきて、あ、広報ってなんかこういうすごいことやってんだみたいな。

矢嶋  そうですね。

加藤 最近の報道やSNSの投稿などで、「PR会社ってひどいね」とか「広報担当ってなんか変じゃない」という投稿が散見されていて、「いや、違うんだから」と言っていきたい。

矢嶋  そうですよね。繰り返しになりますが、広報で企業価値を上げたという事例を増やすことで、もっと広報活動に投資する企業が増えると思うんです。

それこそ、経営として優秀な広報パーソンを採用し、予算を確保してちゃんと投資したら上場したときの時価総額が1桁変わりました、みたいになったら広報に対する見え方が変わるんじゃないかなと思っています。

加藤  そこはちょっと矢嶋さんの力で、変えていってください。いや、広報に関わる人みんなで変えていきたいですね!今日はありがとうございました!

聞き手:加藤恭子(ビーコミ)

構成:松尾(ビーコミインターン)、宮川歩、高梨杏奈

インタビューカテゴリの最新記事